形だけの「多様性」を脱却し、イノベーションにつなげる方法
「女性管理職比率も上げた。外国籍社員も増やした。中途採用で異業種出身者も入れた。それなのに、新規事業の会議で出てくるアイデアは、なぜか毎回似たり寄ったりになってしまう。」
「『何か反対意見は?』の問いに、誰も手を挙げない。沈黙のあと、いつもと同じ結論で議題が通過していってしまう。多様な"人材"は揃えたのに、なぜ多様な"発想"が生まれないのだろう。」
多くの経営者や人事担当者が抱えるこの違和感。その正体は、「多様性」という言葉のなかに、実はまったく異なる2つの種類が隠れていることにあるのかもしれません。
そして組織にとって本当に大事なほうが、同調圧力に押し殺されたまま眠っている・・・そんなケースが、少なくありません。
本連載では、組織の状態を可視化する「Essential Survey」が定義する、強いチームづくりに不可欠な6つの要素を全7回にわたって解説しています。
第3回のテーマは「多様性」。前回までの「心理的安全性」「成長循環」が"個人と関係性"の話だとすれば、今回は集団としてイノベーションを生むための鍵 ―多様な視点をどう引き出し、 活かしていくのか― に踏み込みます。
<目次>
■ 多様性とは?「属性的多様性」と「認知的多様性」の決定的な違い
■ 形だけの多様性に陥る組織の「4つの兆候」:あなたの現場のチェックリスト
■ 今日から始める、認知的多様性をイノベーションに変える3つの具体策
■ 改善の第一歩は「組織の現在地」を知ること
多様性とは?「属性的多様性」と「認知的多様性」の決定的な違い
多様性とは、「組織内に存在する、属性・経験・価値観・思考スタイルなどの『違い』の総体」を指します。
ビジネスの文脈では、多様性は大きく2種類に分けて考える必要があります。
ハーバード・ビジネス・レビュー誌に掲載されたアリソン・レイノルズ氏とデイヴィッド・ルイス氏の研究(2017年)では、経営チーム6グループに時間制限のある戦略課題を出した実験で、認知的多様性が高いチームほど、課題達成までの時間が大幅に短かったことが報告されています。
著者らはさらに、「認知的多様性は性別・民族・年齢といった属性では予測できない」と明言しています。
つまり、イノベーションを生むのは「属性の多様性」ではなく「思考の多様性」であり、ここを見落とすと、様々な属性を揃えても組織は変わらないのです。
- 属性的多様性:性別・年齢・国籍・職種など、外から見える違い
- 認知的多様性:思考スタイル・情報の捉え方・問題解決のアプローチなど、内側にある違い
形だけの多様性に陥る組織の「4つの兆候」:あなたの現場のチェックリスト
認知的多様性が機能していない組織には、共通する兆候があります。あなたの職場に、以下のようなサインが見え隠れしていませんか?
これらの兆候は、いずれも「多様な人材がいない」のではなく「多様な視点を活かしきれていない」ことを示しています。
レイノルズ氏らが指摘するように、強い同質性を持つ組織文化があると、もともと存在している認知的多様性は同調圧力で押し殺されてしまうのです。
- 会議で「反対意見は特にありません」が決まり文句になっている→ 異論が出ないことを「合意」と勘違いし、思考停止に陥っている。
- 「その考えはうちの組織文化に合わない」が頻出ワードになっている→ 異なる価値観を持つ人を「カルチャーフィット」の名のもとで暗黙的に排除している。
- 多様な人材を採用したのに、入った人材がすぐ辞めてしまう→ 入社後に同質化を強要され、せっかくの多様な視点が本領を発揮できないまま離脱する。
- 意見の違う人を“面倒な人”とみなす雰囲気がある→ 異論を“協調性のなさ”とラベリングし、健全な議論が抑圧されている。
今日から始める、認知的多様性をイノベーションに変える3つの具体策
形だけの多様性から脱却するには、「異なる視点を、安全に、意図的に引き出す仕組み」を設計することが重要です。
① 「異論」を意図的に引き出す仕組みをつくる
合意形成は心地よいものですが、全員一致の場には認知的多様性が機能していないリスクがあると認識すべきです。
重要意思決定の前に「最後の反対意見ラウンド」を入れる、あるいは「悪魔の代弁者(あえて反対意見を提示する役割)」を置く工夫も有効です。仕組みとして異論を構造化することが、効果的な第一歩です。
② 属性ではなく「認知スタイル」で多様性を見る
採用や配置において「カルチャーフィット」だけを評価軸にすると、結果として思考の同質化が進みます。
これからは「思考スタイルの補完性」も評価軸に加えましょう。たとえばチーム編成時に、「分析型・直感型」「実行型・構想型」など、メンバーの認知スタイルにバラつきがあるかを意識的にチェックする。性別や国籍だけでなく、脳の使い方の違いを多様性として捉える視点が、イノベーションの土壌になります。(※エマジェネティックス®の活用がオススメです!)
③ 異論が安全に出る「土壌」を整える
どれだけ仕組みを整えても、リーダーが同調を求める空気を出していれば、異論は出てきません。
まずはリーダー自らが「私はこう思うが、違う見方があれば聞きたい」と先に口にすること。そして評価制度に「健全な異論を出す行動」を組み込むこと。同調圧力は個人の意志ではなく構造の問題です。安全に異論を出せる仕掛けがなければ、認知的多様性は埋もれたままになりかねません。
改善の第一歩は「組織の現在地」を知ること
「うちの組織でも、せっかくの多様な視点が、同調圧力に押し殺されているのでは?!」と感じた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
第一歩目として、「組織のどこに、どんな視点が眠っており、なぜそれが表に出ていないのか」を内部から見抜くことが重要です。
本人さえ気づいていない『言いたかったが、言わなかった意見』こそ、組織のイノベーションの種になります。
経営層から見える景色と、現場の中に眠る本音には、想像以上のギャップがあります。そこでお勧めしたいのが、組織の「現在地」を客観的に可視化することです。



